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横浜地方裁判所 昭和60年(ワ)1249号 判決

原告

岩下剛

右訴訟代理人

小池通雄

大川隆司

被告

乙川英

右訴訟代理人

浜勝之

森文治

小林俊行

被告

乙山高夫

右訴訟代理人

石崎泰男

主文

一  被告乙川英と被告乙山高夫との間の別紙物件目録(二)記載の建物部分に関する賃貸借契約を解除する。

二  被告乙山高夫は、原告に対し、別紙物件目録(二)記載の建物部分から退去してこれを引渡せ。

三  訴訟費用は、被告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨。

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

1 本件訴えを却下する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(本案の答弁)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告は、別紙物件目録(一)記載の建物(以下「本件建物」という。)の区分所有者(以下「本件区分所有者」という。)全員によつて構成された本件建物並びにその敷地及び付属施設の管理を行うための団体である。「山手ハイム管理組合」(以下「本件管理組合」という。)の管理者である。

原告は、昭和六〇年四月一〇日、本件管理組合の集会における決議により、管理者として本件区分所有者全員のために本訴を提起する者とされた。

(二) 被告乙川英(以下「被告乙川」という。)は、別紙物件目録(二)記載の建物部分(以下「本件専有部分」という。)の区分所有者である。

(三) 被告乙山高夫(以下「被告乙山」という。)は、被告乙川との間の後記賃貸借契約に基づき本件専有部分を占有している者である。

被告乙山は、広域暴力団山口組系乙山組の組長として、横浜市内においては稲川会に次ぐ勢力を有する暴力団乙山組(構成員は約七〇名、準構成員を含む総勢力は一五〇名とも四〇〇名とも言われる。)の頂点に立つ者であり、かつ山口組組織全体では、昭和四七年に三代目田岡一雄組長のもとで「若頭補佐」、同五九年には四代目竹中正久組長のもとで「舎弟頭補佐」の要職を占め、同六〇年一月二七日、四代目竹中組長の死亡後、一時は山口組五代目組長に擬せられたこともある。

なお乙山組は山口組の「武闘派」と言われ、構成員又は準構成員(以下「組員」という。)による粗暴犯が多いことでも知られており、同年二月以降一〇数件、三〇人近い被検挙者を出している。また被告乙山自身も昭和二八年の鶴田浩二に対する傷害で名をあげた経歴の持主で現在も恐喝未遂罪で起訴され、横浜地方裁判所刑事部で審理を受けている。

2  被告乙山による本件専有部分の占有態様

(一) 被告乙川は、昭和五八年三月一七日、被告乙山に対し、本件専有部分を、期間は昭和五八年三月二五日から同六〇年三月二四日までの二年間、賃料は月額一九万円(他に雑費月額一万三八〇〇円がある。)とし、使用目的は「住居」、契約人員は「三名」とする旨の約定で貸し渡した(以下「本件賃貸借契約」という。)。

同年三月二四日の右賃貸借契約期間満了に際し、被告乙川は、被告乙山との間で、契約更新の合意はしていないが、更新拒絶の意思表示もせず、従つて、右契約は借家法二条により、法定更新を受けて現在に至つている。

(二) 被告乙山は、家族と別居し、本件専有部分に居住している。

そして、同被告の身辺を警護し、かつ身のまわりの世話をするために組員が交代で同被告と共に寝泊まりしている。

その数は情勢の緊迫度に対応して上下するが、いずれにしても顔ぶれは特定せず、従つて後述のとおり、共同生活のルールがいつまで経つても遵守されない、という結果をもたらしている。

(三) 乙山組は横浜市中区松影町二丁目五番九号小柳ビル二階二〇九号室に事務所を有しているが、被告乙山が、他の暴力団組織のトップクラスの者と会う時には、むしろ本件専有部分を使うことが多い。すなわち被告乙山にとつて、本件専有部分は生活の本拠ではなく、事務所の分室ないし組長応接室というほうが実態に即しているといえる。

3  共同生活上の障害の存在

(一) 被告乙山の入居後、昭和六〇年一月ころまでの間の障害

被告乙山は、昭和五八年三月下旬に本件専有部分に入居したが、同被告及び同被告の身辺の警護ないし世話のため本件専有部分に宿泊し、あるいは出入する不特定多数の組員の行為によつて、本件建物の一般入居者の共同生活上の利益が損なわれた例としては、次のようなことがあつた。

(1) 駐車場の不法使用

本件建物地下一階の駐車場のスペースは、本件建物を建築した業者から本件区分所有者全員が取得し、共用部分として本件管理組合が管理しているものである。具体的には本件管理組合が、駐車場スペース内に設定した各駐車区画の使用を希望する本件区分所有者との間に使用契約を結び、その使用料収入をもつて建物補修費用積立金など本件管理組合財政の主要財源としているが、右使用契約の直接の相手方は本件区分所有者に限られている。

そして、被告乙川と本件管理組合との間には、駐車場使用契約は締結されていなかつた。被告乙山は、入居直後二度にわたつて、本件管理組合に対し、駐車場の使用方を申入れて来たが、本件管理組合は先例に従つて右申入れを断つた。

しかるところ、被告乙山及び同被告とともに本件専有部分に出入りする組員は、駐車場の無断使用を開始し、これを継続した。その態様には、他人の使用権が設定されている駐車区画に駐車する場合と出入り口から各駐車区画へ至る通路部分に駐車する場合とがあつたが、いずれにしても、正規に契約している駐車場使用権者の利益を損なうものであつた。

しかも、組員は、正規の使用権者が自車を出入りさせる必要上、不法駐車中の同組員らの車両の移動を要求すればにらみつけ、進んで不法使用であることを指摘すれば「うるせえ、このヤロー」とどなりつけるなどの傍若無人の態度をとり、かつ、車内で待機中には周囲にタンやツバを吐きちらし、たばこの吹い殻を撒き散らすなど、極めて品位を欠く振る舞いを常としていた。

(2) ゴミ処理のルール不遵守

マンションにおける共同生活を円滑に維持する上で、ゴミを処理する場所及び日時を厳守することは必要不可欠であるが、被告乙山は、このルールをほとんど守らなかつた。すなわち本件建物の各入居者のゴミ搬出日は、横浜市清掃局のゴミ収集日時にあわせ、毎週月・水・金曜日の朝と決められているにもかかわらず、同被告は、日時を選ばず随時ゴミを出し、しかも場所も一定しなかつた。

このことについては、管理人も随時注意を与えていたが、前述のとおり被告乙山の身の回りの世話をする組員の顔ぶれが始終交代し、前後の引き継ぎがなされないうえ、それぞれの組員に生活者としての自覚が欠如しているため、何度注意しても実効はあがらなかつた。

(3) 被告乙山が管理組合規約その他共同生活上のルールを無視していることは、共用部分たるバルコニーに無断で鳩小屋を設置したことなどにもあらわれている。

(二) 昭和六〇年一月下旬以降発生または激化した障害

広域暴力団山口組は、昭和五六年七月に三代目組長田岡一雄が病死し、つづいて同五七年二月に若頭山本健一が病死した後、若頭補佐筆頭の山本広が組長代行を務めていたが、同五九年七月に竹中正久が四代目組長を襲名するに及んで、これを不満とする右山本広らが山口組を脱退、別に「一和会」を結成し、両組織の間に対立抗争が発生していた。

しかるところ、同六〇年一月二六日、右一和会の組員が、山口組四代目組長竹中正久らを銃撃し、同組長及び若頭中山勝正ほか一名を死亡させた事件が発生した。

これ以来、両組織の間の緊張関係がにわかに強まり、山口組の大幹部の一人である被告乙山の身辺警護態勢も当然強化され、そのことが本件建物の一般入居者の生活の平穏を著しく阻害するところとなつた。具体的には、次のような現象にその点があらわれている。

(1) ボディーガードの著しい増加と本件建物内外への展開

被告乙山が本件専有部分に出入りするに際して、それまでは一、二名ないしせいぜい数名の組員が付き添う程度であつたのが、一和会との対立抗争の激化以降、にわかに一〇数名程度に激増した。

そして、この多数の組員が被告乙山の本件建物への出入に際し、あらかじめ駐車場ないし玄関ホールからエレベーター周辺、更には本件専有部分に至る廊下などに展開し、同被告の通行の安全を確保し、その配置場所は、ときに非常口の周辺や屋上にも及んだ。

(2) 一般入居者の行動の自由への制約

右のように本件建物内外に広範に展開した組員らは、本件建物の一般入居者に対して不審尋問をしたり、ボディー・チェックをしたりするばかりでなく、同被告がたまたま近くにいる場合には、同被告と接近させないために一般入居者のまわりをとりかこんで身動きができないようにするなどの方法で、一般入居者の行動の自由を制約した。

(3) 駐車場の不法使用の激増

右のように一〇数名の組員らが、被告乙山の出入りに伴つて本件建物に同行し、かけつけ、あるいは待機するので、いきおい同人等の車が、本件建物地下駐車場を占拠し、あるいは本件建物前路上(なお、同路上は、交差点につき駐停車禁止である。)に違法駐車されるケースが激増した。しかも従前と異なり、たむろしている組員の数が多いことを頼んで、一般入居者に対し、極めて居丈高な態度をとり、わがもの顔に振る舞つていた。

(4) その他被告乙山を「防衛」するための異常措置

一和会との対立抗争激化後、被告乙山は本件専有部分の入り口の表札を撤去し、電話番号も変更した(新しい電話番号は本件管理組合にも知らされず、管理上不都合を生じている。)。

のみならず同被告は、住民の安全のためと称して本件専有部分の入り口に室外監視のためのテレビカメラを設置し、また万一の場合における逃走経路を確保するため本件建物の非常口の扉を開け放しにしてしまつた(なお、右非常口は、防犯上の観点から施錠してあり、非常の場合にのみ各戸に配られている鍵を用いて開けることとされている。)。

(三) 警察等への要請以後の現状

(1) 本件管理組合は右(二)のような事態に対処するため昭和六〇年二月二四日集会を開いた。被告乙川は、この集会に参加したが、本件建物内に居住していないので事実関係を認識している筈がないのに、「乙山さんは幹部クラスの人間だからあまり問題は起こさないと思う」などと述べ、また、被告乙山側の「現在の情況から乙山氏を一人で歩かせるわけにはいかない。常に二、三台の車でガードしていないと危険である。抗争相手から狙われないようにボディーガードをつけることは住民にとつても安全なのではないか」などとの見解を紹介した。

(2) このように両被告とも本件建物の一般入居者の迷惑について無関心であることに鑑み、本件管理組合は昭和六〇年三月三日付文書により、被告乙川に対し、本件専有部分の賃貸人として被告乙山に対し一連の行為の是正と将来の再発防止を誓約させるか、さもなければ同月二四日の賃貸借契約期間満了を機に、被告乙山を本件専有部分から立退かせるように勧告するとともに、神奈川県警察本部(以下「県警本部」という。)に対しては、住民の安全確保のための一層の尽力を要請した。

(3) 本件管理組合による県警本部への右要請及びこの事実が新聞テレビ等によつて報道されたことを契機として、被告乙山は、玄関先のテレビカメラを撤去したり、本件専有部分への出入りの時刻をなるべく深夜または早朝にして、一般入居者の出入りとかちあわないようにしたり、その際の同行者の数を減らしたりするという対応をした(なお、鳩小屋は本件管理組合の要請により、既に昭和六〇年二月中に撤去された。)。

しかし、最盛期ほどではないとはいえ、組員らが随時本件建物地下駐車場を不法に使用したり、一般入居者を威迫していることにおいて本質的な変化はない。

(4) しかも、その後、山口組と一和会の対立抗争事件が全国に拡大し、死傷者の数も日を追つて増加してゆくのを見るにつけ、本件建物の一般入居者としては、広域暴力団同士の対立抗争のとばつちりを受けるおそれに対する危機感を深くしている。

4  明渡の必要不可欠性

(一) 昭和六〇年一月二六日以降の山口組と一和会との間の抗争事件は、同年五月一三日時点での警察庁の集計によれば合計六七回、これによる死傷者数は三四人(死亡一四人、負傷二〇人)にのぼる。この死者の数は、史上空前と言われた山口組と松田組との間のいわゆる「大阪戦争」において、三年あまりの間に発生した一二名という数を、わずか三カ月あまりで凌駕するものであつた。

しかも、同年四月一四日時点での集約結果が四〇件、死傷者一九名(死亡一〇名、負傷九名)であることと対比すると、この一カ月たらずの間に二七件、死傷者一五名(死亡四名、負傷一一名)の抗争事件が発生していることになる。これは、全国のどこかで平均してほぼ毎日一件の抗争事件があり、二日に一人の割合で死傷者が発生していることを意味する。

抗争の現場も、場所を選ばぬ観があるが、やはり組の事務所が最も多く、組長の自宅がこれに次いでいる。襲撃に使用される凶器は、ほとんどの場合において拳銃などの銃器である。そして、同年四月一四日の白昼、神戸市内最大の繁華街である三の宮交差点において、多数の通行人の面前で両組織の間の銃撃戦が行われたことに明らかなように、両組織とも、互いの抗争のために罪のない一般市民が巻添えになることについて、全く無神経になつており、現に同月二三日には、神戸市内で通行人が流れ玉にあたつて全治一か月の重傷を負つている。

(二) このように、いわゆる仁義なき闘いが、山口組と一和会との間に展開されており、被告乙山が山口組の最高幹部であることに照らせば、同被告がいつ襲撃されても不思議ではなく、たまたま本件建物内に同被告がいるときに襲撃があれば、他の入居者が巻添えになる現実的な危険が存在することは明白である。

被告乙山は、本件建物の一般入居者のかかる危機感を「誇大妄想」であると決めつけているが、対立組織の襲撃を最もおそれているのは他ならぬ同被告自身である。さればこそ同被告は、市内中区松影町二丁目五番九号小柳ビル内の乙山組事務所の窓や入り口のドアに鉄板を熔接し、組員らによる見張りを強化するなどして、その要塞化をはかつているのである。

(三) 被告乙山が対立組織から襲撃される危険性、従つて本件建物の一般入居者がこれにまきこまれる危険性は、同被告なり、組員の個々の行動を禁止、制限することによつて除去することは出来ず、同被告が本件建物から立退くことによつてのみ除去することが出来るものである。

5  手続的要件の存在等

本件管理組合の規約においては、議決権は専有部分の面積いかんにかかわらず、住戸一戸につき一個と定められている(同規約四四条一項)。全住戸数は三三戸であり、二戸ずつを所有する者が二名いるので、構成員数は三一名、このうち一戸一名は所在不明のため、現実の招集対象者は三〇名(三二議決権)である。

しかるところ、原告は、本件管理組合の管理者として、昭和六〇年三月二七日、本訴提起の可否を議題とする臨時集会を同年四月一〇日午後八時に招集する旨を、知れたる本件区分所有者全員に通知し、右集会には二七名(二九議決権)が出席(委任状による出席六名・六議決権を含む。)したうえ、出席者全員の賛成により、本訴を提起すること、原告が本件区分所有者全員のために本訴を提起することが、それぞれ決議された。

なお、右決議に先立ち、本件管理組合は、同年四月四日に、被告らに対し、同月八日午後八時からの弁明の機会を与えた。

6  結 語

被告乙山が暴力団幹部として対立組織からの襲撃におびえなければならないのは、いわば身からでたサビであるが、そのためにボディーガードを擁して近隣住民の生活の平穏をみだしたり、ましてや近隣住民を生命身体の危険にさらすなどということは許されるべきものではない。

そしてかかる事態を避けるためには、本件賃貸借契約を解除して、同被告を立退かせるほかに有効な手段は存在しない。

同被告がそのことによつて多少の不利益を被ることがあつても、それは同被告が暴力団という反社会的集団の一員としての地位を固守することに伴うものであるにすぎないし、また同被告の生活の本拠は別に存在するので、その不利益自体もさしたるものではない。

これに反し、何のいわれもなく暴力団の内部抗争のとばつちりで生活の平穏ひいては生命・身体の安全をおびやかされている本件建物の一般入居者が、現に被つている不利益は重大である。

よつて、建物の区分所有等に関する法律(以下「法」という。)六〇条一項に基づき、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

二  被告らの本案前の主張

(被告乙川)

本件管理組合の昭和六〇年四月一〇日の集会において、本件賃貸借契約の解除を求める旨の決議がなされておらず、かつ、本件管理組合は、右決議に先立ち、被告らに対し右決議につき弁明の機会を与えていない。

よつて、本訴は不適法である。

(被告乙山)

1 被告乙川の前記主張と同旨。

2 区分所有者の団体がその集会において専有部分を占有する者に対してその引渡を求める旨の決議をする場合においては、これに先立ち、右占有者に対し、集会の日時、場所、議題及びこれを理由づける違反行為の概要を通知して弁明の機会を与えるべきである。とりわけ、違反行為の概要の通知を欠くときは、右占有者において実質的な弁明が不可能又は困難となるので、これを欠くことは許されない。

ところが、右通知書にあたる本件管理組合作成の昭和六〇年三月二七日付通告書(甲第一三号証の二)には、被告乙山の違反行為の概要が具体的に記載されていない。

従つて、本件管理組合の昭和六〇年四月一〇日の集会において、本件専有部分を占有する被告乙山に対してその引渡を求める旨の決議がなされていたとしても、本件管理組合は、右決議に先立ち、同被告に対し弁明の機会を与えているとはいえない。

よつて、本訴は不適法である。

三  請求原因に対する認否

(被告乙川)

1 請求原因1項(一)のうち、第一文の事実は認め、第二文の事実は否認する。同項(二)の事実は認める。同項(三)のうち、第一文の事実及び被告乙山が乙山組の組長であることは認め、その余の事実は知らない。

2 同2項(一)の事実は認める。同項(二)のうち、被告乙山が本件専有部分に居住していることは認め、その余の事実は知らない。同項(三)のうち、乙山組の事務所が原告主張の場所にあることは認め、その余の事実は知らない。

3 同3項(一)、(二)の事実は知らない。同項(三)のうち、本件管理組合が昭和六〇年二月二四日集会を開き、被告乙川がこれに出席して自己の意見を述べ、かつ、被告乙山側の見解を紹介したこと及び被告乙川が本件管理組合作成の同年三月三日付の文書による勧告を受領していることは認め、その余は争う。

4 同4項(一)の事実は知らない。同項(二)、(三)は争う。

5 同5項のうち、本件管理組合が昭和六〇年四月八日被告乙川に対し本訴の提起につき弁明の機会を与えたこと及び本件管理組合の同月一〇日の集会において本訴の提起につき決議がなされたことは否認し、その余の事実は知らない。

6 同6項は争う。

(被告乙山)

1 請求原因1項(一)、(二)の事実は認める。同項(三)のうち、第一文の事実及び被告乙山が、暴力団乙山組の組長であり、昭和四七年に暴力団山口組三代目田岡一雄組長のもとで若頭補佐の地位にあり、同二八年に鶴田浩二に対する傷害事件をおこし、現在恐喝未遂罪で起訴されて横浜地方裁判所刑事部で審理を受けていることは認め、その余は争う。

2 同2項(一)の事実は認める。同項(二)第一、第二文の事実は認め、第三文の事実は否認する。同項(三)のうち、乙山組の事務所が原告主張の場所に所在することは認め、その余の事実は否認する。

3 同3項(一)のうち、被告乙山が昭和五八年三月下旬に本件専有部分に入居して宿泊していること、同被告が本件管理組合に対し駐車場の使用方を申入れたが拒否されたこと、同被告がバルコニーに鳩小屋を設置したことは認め、その余の事実は否認する。同項(二)のうち、冒頭第一、第二文の事実及び(4)のうち、被告乙山が本件専有部分の入り口の表札を撤去し、電話番号を変更し、右入り口にテレビカメラを設置したことは認め、その余の事実は否認する。同項(三)のうち、被告乙山がテレビカメラ及び鳩小屋を撤去したこと並びに同被告が本件建物の他の居住者との接触を避けたことは認め、その余の事実は否認する。

4 同4項(一)の事実は知らない。同項(二)、(三)は争う。

5 同5項は争う。

6 同6項は争う。

第三  証拠〈省略〉

理由

一本件専有部分が本件建物の専有部分であること、被告乙川が本件専有部分の区分所有者であり、同乙山が同乙川との間の本件賃貸借契約に基づき本件専有部分を占有していること及び原告が本件区分所有者全員によつて構成される本件管理組合の管理者(以下「管理者」という。)であることは当事者間に争いがないところ、〈証拠〉によれば、本件建物の専有部分は三三個であり、区分所有者は三一名であつて、右区分所有者のうち二名が右専有部分を二個ずつ所有し、その他の二九名は右専有部分を一個ずつ所有しているところ、本件管理組合規約(以下「本件規約」という。)四四条一項は、各区分所有者の議決権を各専有部分につき一個と定めていること、昭和六〇年三月二七日、管理者は、本件区分所有者全員に対し、同年四月一〇日午後八時から本件建物の五〇一号室において法六〇条に基づき被告乙山の占有する本件専有部分の引渡しを請求する訴えを提起することなどを議題とした本件管理組合の臨時総会を開催する旨の集会招集の通知をし、同月一〇日午後八時ころ右五〇一号室において右臨時総会が開催されたこと、同集会には、議決権数二九個を有する本件区分所有者二七名が出席し(但し、委任状による出席者を含む。)、右全員の賛成により、管理者である原告が本件区分所有者全員のために、法六〇条一項に基づき、被告乙山の占有する本件専有部分の引渡しを請求する訴えを提起する旨の決議のなされたこと(以下「本件決議」という。)が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

二1  被告らは、本件決議にあたつて被告乙川には弁明の機会が与えられていないし、また、本件決議においては本件賃貸借契約の解除を請求することが決議されていないから、本件決議は違法である旨主張するので、判断する。

法六条一項及び三項は、「区分所有者及びそれ以外の専有部分の占有者(以下「占有者」という。)は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない」と定め(以下、右行為を「違反行為」という。)、また、同五七条は、区分所有者又は占有者が違反行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員は、区分所有者の共同の利益のため、集会の決議に基づき、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを裁判上請求することができる旨定め、更に、その違反行為が著しく、他の区分所有者との共同生活関係の円満な維持・継続がもはや期待できないほど重大である場合には、区分所有者に関しては、同五八条一項又は同五九条一項の規定により、他の区分所有者の全員が、集会の決議に基づき当該区分所有者による専有部分の使用禁止又は区分所有権の競売を裁判上請求し、当該区分所有者を区分所有関係から一時的又は終局的に排除する制裁措置を講ずることが認められており、また、占有者に関しては、同六〇条一項の規定により、区分所有者の全員が集会の決議に基づき、当該占有者の占有する専有部分の使用又は収益を目的とする契約の解除及びその専有部分の引渡しを裁判上請求し、当該占有者の専有部分に対する占有を剥奪し、区分所有建物から排除する制裁措置を講ずることが認められている。そして、法は、集会において右制裁措置についての決議をするにあたつては、あらかじめ、当該違反行為者に対し、弁明の機会を与えなければならない旨定めている(五八条三項、五九条二項、六〇条二項)。

そうすると、本件決議は、区分所有者の全員が本件専有部分の占有者である被告乙山に対する制裁措置として同被告の占有している本件専有部分の引渡しを裁判上請求することを内容としていることが明らかであるから、本件専有部分の区分所有者である被告乙川に対して弁明の機会が与えられなかつたとしても、それによつて本件決議の効力に何らの消長をきたすものではないものといわざるを得ない。

また、法六〇条一項は、区分所有者の全員は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る占有者が占有する専有部分の使用又は収益を目的とする契約の解除及びその専有部分の引渡しを請求することができる旨定めているが、この場合の契約解除請求は、占有者が専有部分につき区分所有者等との契約に基づいて占有権原を有する場合に関する法技術的な手続を明らかにしたものと解するのが相当であるから、同条一項にいう集会の決議においては、区分所有者の全員が、同項所定の措置として、訴えをもつて、当該占有者の占有を剥奪し、区分所有建物から排除する請求をすることが明らかであれば足り、それ以上に、集会の決議において契約の解除請求をする旨の文書が明示されているか否かは、右決議の効力を左右するものではないものというべきである。

したがつて、被告らの前記主張は、その余の点については判断するまでもなく、いずれも採用することができない。

2  被告乙山は、管理者が同被告に対して弁明の機会を与えるにあたり、違反行為の概要を通知していないから、本件決議は違法である旨主張するので、判断する。

管理者が占有者に対し、法六〇条二項の準用する同五八条三項の規定する弁明の機会を与えるにあたつては、占有者が十分に弁明することができるようにするため、事前に違反行為の概要を通知し、占有者をしてこれを了知させておくことが必要であることはいうまでもないところ、〈証拠〉によれば、本件管理組合は、被告乙川に対する昭和六〇年三月三日付書面をもつて、被告乙山の違反行為を具体的に列挙し、同被告をして本件規約等を遵守する旨の誓約書を提出させることを求めたこと、被告乙山は管理者に対し、同月一九日付で、前記書面に列挙された違反行為は一切ないものと思われるが、今後厳重に組員を指導監督する旨の誓約書を提出したこと、管理者は同被告に対し、同月二七日付書面をもつて、同被告が右違反行為は一切認めないという態度をとつており、またその違反行為が警察の警備強化等によつて一時的な沈静状態にあるものの、本件建物が一和会との抗争の場となる具体的危険が存在するので、同年四月一〇日に臨時総会を開催し、同被告に対し法六〇条に基づき、本件専有部分の引渡しを請求するための手続を行う予定であり、そのための弁明の機会を提供するので、都合のよい日を知らせてほしい旨の通知をしたこと、しかし、同被告からは何らの連絡もなかつたので、管理者は同被告に対し、同月四日付書面をもつて、同月八日午後八時に前記五〇四号室において弁明の機会を提供する旨通知したこと、被告乙山から管理者に対し、同月四日付書面をもつて、同被告は前記列挙された違反行為をしていないし、また、一和会との抗争による危険性も存在せず、同被告に対する中傷である旨回答し、同月八日には右五〇四号室に来なかつたこと、そこで、管理者は同被告に対し、同日付書面をもつて、再度、同月一〇日右五〇一号室において弁明の機会を提供する旨通知したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、被告乙山が弁明すべき違反行為の概要は事前に同被告に告知され、同被告もその内容を知悉していたものと認めるのが相当である。

したがつて、被告乙山の前記主張も採用することができない。

三原告は、被告乙山の違反行為が著しく、区分所有者全員との共同生活関係の円満な維持、継続がもはや期待できないほど重大であり、これを除去するためには同被告から本件専有部分の引渡しを求める方法しかない旨主張するので、検討する。

前記事実に加え、〈証拠〉を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  本件建物は、鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付六階建の一棟の建物であつて、専ら住居の用に供する三三個の専有部分から成つており、店舗又は事務所の用に供する専有部分はないので、本件規約一二条においても、本件区分所有者は、原則として、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない旨定めており、いわゆる住居専用マンションということができること、また、その地下一階は、本件管理組合が、本件規約一五条に基づき、駐車場として二二区画に区分して、これを本件区分所有者のうちの希望者に貸し付け、その賃料収入を本件管理組合の管理運営費用に充てていること、本件専有部分は、三階にあつて、本件建物の玄関からエレベーター又は階段を利用して出入りする構造になつていること

2  被告乙山は、広域暴力団山口組系乙山組の組長であり、昭和二八年ころには、鶴田浩二に対する傷害事件を起こし、現在、横浜地方裁判所刑事部において恐喝未遂罪により審理を受けているが、同被告は、山口組の中において、同四七年に三代目田岡一雄組長のもとで若頭補佐、同五九年には四代目竹中正久組長のもとで舎弟頭補佐と枢要な地位を占め、一部マスコミの報道によれば、右竹中正久組長が対立抗争関係にある暴力団一和会系組員により殺害された後の同六〇年一月ころ、山口組内部で同組五代目組長の候補者として、その名が挙げられたこともあつたこと、また、乙山組の組員は、直系約二〇名、傍系も含めると約四五〇名であるが、同六〇年初めから同年九月ころまでの間に、約二〇名が恐喝、暴行、傷害などの被疑事実により検挙され、市民にとつても無気味な存在となつていること

3  被告乙山は、昭和五八年三月下旬ころ、本件専有部分に入居したが、家族とは同居せず、同被告の身辺を警護し、かつ、身のまわりの世話をさせるため、常時、少くとも二、三名の組員を付き添わせており、このため、同被告の入居以来、少くとも二、三名の組員が、本件建物及び本件専有部分に出入りし、寝泊りをしていること

4  被告乙山が本件専有部分に入居した昭和五八年三月下旬から同六〇年一月下旬までの間において、次のような事実があつた。

(一)  被告乙山は、入居直後、二度にわたつて、本件管理組合に対し、本件建物地下一階の駐車場(以下「本件駐車場」という。)の賃借方の申入れをしたが、本件管理組合は、同被告が区分所有者でないことに加え、本件駐車場の区画数が本件区分所有者の数の約三分の二しかないことなどから、右申入れを断つたこと

しかるに、同被告や組員は、たえず、本件駐車場を無断で使用して、本件駐車場の使用権原を有する本件区分所有者の使用を妨害し、また、組員らは、右区分所有者から車両の出入りのために妨害車両の移動を要求されると、右区分所有者をにらみつけたり、「うるせえ、このやろう」などとどなりつけるなどしたうえ、知らん振りをして妨害車両を移動しなかつたり、妨害車両で待機中に、タンやツバを吐きちらしたり、たばこの吸い殻を撒き散らすなどの傍若無人な態度をとることもあつたこと

(二)  いわゆる住居専用マンションにおいては、入居者がゴミを出す日時や場所を遵守することは、共同生活を営むうえで不可欠なことであつて、本件建物においても、入居者のゴミを出す日時が、横浜市清掃局のゴミ収集日にあわせて毎週月、水、金曜日の朝と定められており、場所も定められていたが、被告乙山や組員らは、右所定の日時、場所とは全く関わりなく、勝手にゴミを放置するため、夏にはそれが腐敗して悪臭を放つたり、冬には、猫や犬がそれを食い散らし、散乱させるという事態も生じたこと、本件建物の管理人などは、これを注意したが、組員らは一同に従わなかつたこと

(三)  本件建物の入居者は、組員らによる前記のような行状に恐怖感を覚え、あるいは、不快感を抱くなどしたが、後難をおそれるなどして、これに強く抗議することもできなかつたこと

5  山口組では、昭和五六年七月に三代目組長田岡一雄が病死し、続いて同五七年二月に若頭補佐山本健一が病死した後、若頭補佐筆頭の山本広が組長代行を務めていたが、同五九年七月に竹中正久が四代目組長を襲名するに及び、これを不満とする右山本広らが山口組を脱退し、暴力団一和会を結成し、以後、山口組と一和会との間に対立抗争が発生していたところ、同六〇年一月二六日、一和会系組員が、右竹中正久組長らを銃撃して、同組長及び若頭中山勝正ほか一名を死亡させるという事件が発生したこと、このため、山口組と一和会との間の対立抗争が激化し、山口組の幹部の一人である被告乙山は、同事件後間もなく、一和会の襲撃に備えて、横浜市中区松影町二丁目五番九号小柳ビル二階二〇九号室にある乙山組事務所の窓や入口のドアに鉄板を熔接し、更にドアには防犯カメラを設置したうえ、組員による見張りを強化するなどして、さながら同組事務所を要塞化し、臨戦態勢をとつたこと

6  更に、昭和六〇年一月下旬以降には、次のような事実があつた。

(一)  被告乙山は、本件建物及び本件専有部分に出入りするに際し、一和会の襲撃に備えて、一〇数名の組員を付き添わせるようになつたこと、そして、これらの組員らは、同被告が本件建物の入り口から三階の本件専有部分までの間に一和会の襲撃を受けることのないようにするため、本件駐車場、本件建物の玄関ホール、エレベーター周辺及び三階廊下などに分散し、本件建物の他の入居者に対しても、一和会の者ではないかと疑つて威嚇や誰何したり、ボディーチェックをしたり、更に、同被告と右入居者とが擦れ違うようなときには、右入居者のまわりを取り囲んでにらみつけるようなこともあり、そのうえ、組員らによる本件駐車場の無断使用も激増したこと

(二)  また、被告乙山は、本件専有部分の入り口の表札を撤去して、電話番号をも変更したうえ、右入り口付近にもまたテレビカメラを設置したこと

更に、本件建物の非常口は、防犯上の観点から、平素は施錠しているのであるが、組員らは勝手に右非常口を開け放ち、夜通し見張りをしている者もいたこと

7  本件管理組合は、前記のような事態に対処するため、昭和六〇年一月二八日以降しばしば理事会を開き、同月三一日の理事会においては被告乙川に対して実情を伝えて善処方を要請し、同年二月二四日には、被告乙川も出席のうえ、臨時総会を開いて、被告乙山や組員らの前記行状などについて討議をし、同年三月三日、被告乙川に対し、同日付「勧告」と題する書面(甲第八号証)により、被告乙山や組員につき、①本件専有部分の入り口付近にテレビカメラを設置していること、②共用部分であるベランダに鳩小屋を無断で設置したこと、③組員ら不特定多数の者を本件専有部分に出入りさせ、住宅として使用しているとは認め難いこと、④本件駐車場の無断使用が多いこと、⑤ゴミを出す日時を守らず、組員らがたばこの吸い殻を廓下に捨てるなど共同生活のルールを守らないことが多々見受けられること、⑥被告乙山が多数の組員らをボディーガードと称して同行し、廊下、エレベーター、階段等を俳徊させ、住民に多大な不快感を与えていること、⑦本件建物の非常口を勝手に開け放ち、組員らを見張りに立たせているなどの防犯上の問題を惹起していること、⑧組員らが本件建物の他の入居者に対しボディーチェックや尋問まがいの行為をしていること、⑨組員らが婦女子をからかい、本件建物の他の入居者に対し不快感を与えていること、⑩本件駐車場の無断使用に対し、本件建物の他の入居者が注意をしたところ、逆に組員におどされたことなどの違反行為がある旨の指摘をして、被告乙川において、これらの違反行為を解決し、かつ、本件建物の他の入居者に具体的損害が発生した場合にはこの損害賠償責任を負う旨の誓約書を提出することなどを要求し、また、被告乙山をして、本件規約を遵守する旨の誓約書を提出せしめることを要求したこと

8  被告乙川は、本件管理組合の昭和六〇年一月三一日の理事会に出席した際、被告乙山又は組員につき前記「勧告」と題する書面に記載されたのとほぼ同様な違反行為がある旨の指摘を受けたので、同年二月九日、被告乙山の身辺を警護し身のまわりの世話をしている組員の責任者格である笠原忠に会い、右指摘に係る違反行為の善処方を申入れ、また、同年三月五日に右「勧告」と題する書面を受領したので、同月六日、笠原忠に対し、その写を交付したこと、なお、笠原忠は、同年二月九日以降、被告乙山から本件管理組合及び被告乙川との交渉についての代理権を与えられていたこと

9  本件管理組合は、昭和六〇年三月五日、県警本部に対し、本件建物の入居者の安全確保のための一層の尽力方を要請したことから、本件建物につき警察官による警備が強化され、かつ、同日から翌日にかけて、これがテレビ新聞等で大きく報道されたこと

10  前記県警本部に対する要請及びテレビ新聞等による報道があつたこともあつて、被告乙山は、本件管理組合に対し、同乙川を介し、昭和六〇年三月九日ころ、本件規約を遵守する旨の同月六日付誓約書(甲第九号証の三)を、また、同月二〇日ころ、組員につき前記「勧告」と題する書面により、指摘された違反行為は一切ないと思われるが、被告乙山としては、今後そのような行為がないように厳重に組員を指導監督することを誓約する旨の同月一九日付誓約書(甲第一二号証)を各提出し、また、そのころ、本件専有部分の入り口に設置したテレビカメラを撤去したり、更に、本件建物の入居者と出会わないように出入りの時間をずらすなどしたりし、それ以降は、同被告や組員につき指摘された前記違反行為は、一応減少したものの、なお、組員らが、本件建物の他の入居者に対し、一和会の者ではないかと疑つてこれを取り囲んで威嚇し、誰何することもあつたこと

11  山口組と一和会との間の抗争事件は、昭和六〇年一月二六日から同年五月一三日までの間、約六七件あり、これによる死者は約一四名、負傷者は約二〇名であつて、その後も、右事件数は増加していること

また、右抗争に使用される凶器は、ほとんどの場合が拳銃などの銃器であり、同年四月一四日の白昼には、神戸市内の繁華街において、多数の通行人の面前で拳銃の使用された抗争事件があり、また、同月二三日には、神戸市内において、一般市民が抗争の巻添えになつて負傷したのを初めとして、同年五月二六日時点では、全国において、一般市民五人が巻添えになつて負傷していること

12  原告は、本件管理組合の管理者として、法六〇条一項に基づき被告乙山に対して本件専有部分の引渡しを求めることなどを議題とする集会を昭和六〇年四月一〇日午後八時に本件建物内五〇一号室において開催することとし、被告乙山に対し、同月八日と同月一〇日の二回にわたり、弁明の機会を与えたが、同被告は、同月四日ころ、本件管理組合に対し、同被告が区分所有者の共同の利益に反する行為をしたことがなく、今後においてもその行為をする意向がない旨を記載した回答書(甲第一五号証)を提出したものの、右弁明の機会として指定された場所には出頭しなかつたこと

13  被告乙山や組員らは、現時点においても、一和会から襲撃されたときにはこれに応戦し、反撃する態勢をとつているし、また、本件規約を一向に理解していないこと

以上の事実が認められ、右認定に反する〈証拠〉部分は前顕証拠に照らして措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上の認定事実によれば、被告乙山は、昭和五八年三月下旬に家族と離れて本件専有部分に入居以来、同被告の身辺を警護するとともに身のまわりの世話をする二、三名の組員らと一緒に生活をしているが、組員らは区分所有者との円満な共同生活関係を維持するということには全く無関心であるのみならず、その中にはややもすれば遵法精神に欠ける者さえもおり、これらの者の勝手な振る舞いによつて本件建物の区分所有者の円満な共同生活が阻害され、同区分所有者にとつては同被告は極めて無気味で、しかも迷惑な占有者であり、更に、同六〇年一月二六日以降は、山口組と一和会との対立抗争が激化するに伴ない、同被告の身辺を警護する組員の人数が増えるに従つてそれらの者の傍若無人な行動は右区分所有者の恐怖感さえも深めることになり、同被告との共同生活の継続が耐え難い状況になつたこと、もつとも、最近は、組員らの行動にも、右区分所有者を刺激しないようにとの配慮が見受けられるが、これも同被告らには過去の区分所有者らとの共同生活上の違反行為について反省の色もないから、警察の本件建物に対する警備の強化との関わりを否定し難く、しかも、山口組と一和会との対立抗争が続く限り、同被告の身辺に、いつ、いかなる事態が発生するやも測り知り難い状況にあるうえ、これに伴ない、右区分所有者にとつても極めて不安で無気味な共同生活を強いられることになり、これはもはや耐え難い事態に至つているものということができる。

そうすると、被告乙山は、本件専有部分の使用に関し、本件建物の区分所有者の共同の利益に反する行為をしたもので、かつ、将来もその行為をするおそれがあり、これによる本件区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去して本件区分所有者の円満な共同生活関係の維持を図ることが困難であるものというべきである。

四以上によれば、原告の被告らに対する本訴請求は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官古館清吾 裁判官橋本昇二 裁判官足立謙三)

物件目録

(一) (一棟の建物の表示)

所 在 横浜市中区山手町一〇三番地一

構 造 鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付六階建

床面積

一階 五四三・七〇平方メートル

二階 五八七・四八平方メートル

三階 五八七・四八平方メートル

四階 五八七・四八平方メートル

五階 五四五・五〇平方メートル

六階 五三〇・六五平方メートル

地下一階 五三三・六八平方メートル

(二) (専有部分の建物の表示)

家屋番号 山手町一〇三番一の一四

建物の番号 三〇二

種  類 居宅

構  造 鉄筋コンクリート造一階

床面積 三階部分 七七・六六平方メートル

(別紙図面の赤枠で囲んだ〈編注・斜線〉部分)

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